自閉症スペクトラムなど、発達障害のある子供によく見られる「オウム返し」。
反響言語」や「エコラリア(Echolalia)」と呼ばれることもあります。オウム返し=自閉症というわけではなく、小さな子供が言語を習得していく過程でも、オウム返しはよく起こります。

オウム返しは専門的に分類すると、即時性反響言語(即時エコラリア)」と、遅延性反響言語(遅延エコラリア)の2つがあります。即時性反響言語とは、聞かれたことをそのままくり返して答えることで、遅延性反響言語とは、テレビで見たフレーズなどを後からぶつぶつくり返して言うことです。

どちらも自閉症スペクトラムの子供にはよく見られ、「おはようございます、は?」とあいさつを促された場面で「おはようございますは?」とそのままくり返して言ってしまったり、好きなCMのフレーズをずっとくり返して言っていたりします。

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2~3歳頃の言葉を習得している時期の子供がオウム返しをすることもあり、徐々に治まっていくようなら心配ありませんが、いつまでたってもオウム返しが直らない、会話が成立しない場合は、発達障害を疑って診察を受けることをおすすめします。

2歳5カ月の三男ユウキも今まさに言葉爆発期で、次々と新しい言い回しを覚えていくのですが、その過程でよく私のいった言葉をそのままくり返して言い直しています。ただこの場合は「オウム返し」というよりは、「模倣」と呼ばれる正常な発達過程なので、親の言葉をくり返しているのが「オウム返し」なのか「模倣」なのか、見極める必要があります。

なんというか、自閉症児の「オウム返し」は、会話が成立している感じがしないので、比べてみるとすぐにわかると思います。

定型発達の子供の「模倣」は
「今日は雨がザアザア降ってるね」
「あめ、ザアザアね」
「お外は行けないよ」
「おそといけないね~」
のように親との会話を通して、正しい言い回し、新しいフレーズを覚えるためにくり返して使っています。次は雨が降っている日に、自分から同じように言えるようになります。自分の中で言葉を一度吸収して、自分の口で言い直しているのが「模倣」です。

自閉症スペクトラムの子供の「オウム返し」は
「〇〇くん、おはようございます」
「〇〇クン、オハヨウゴザイマス」
「カバンを片づけましょう」
「カバンヲカタヅケマショウ」
のように、テープレコーダーに喋っているような感じ。相手に言葉の意味が伝わっていないことが、よくわかります。普通の子なら、「先生、おはようございます」や「わかりました」のように、言われたことに対しての返事を返せるのですが、自閉症児はそれができず、まさに鏡に反響するような「オウム返し」になってしまいます。

またわかりやすいように上記はカタカナで書きましたが、イントネーションの不自然さも「オウム返し」の特徴です。言い回しは同じでも、疑問形で聞かれたら、肯定や否定の意味に言い直せているかどうかも、「オウム返し」と「模倣」を見分けるポイントです。疑問形に疑問形でそのまま答えてしまうのは、「オウム返し」や自閉症児の言葉の使い方の特徴です。

即時性反響言語の「オウム返し」が起こるのは、①言われた意味が分からない、②答え方が分からない、の2つが主な原因と言われています。

①の場合は、言葉と意味がつながっていくのを根気強く待つ、できるだけわかりやすいように簡単な言い回しを心がける、対応を。
②の場合は、正しい答え方を根気強く教える、「YES」「NO」、「まる」「バツ」で答えられるように質問を工夫する、対応がおすすめです。

遅延性反響言語の「オウム返し」をするのは、①それを言うことで安心できる、②言葉遊びをしている、せいだと言われていますが、やっぱり知らない人が見たらギョッとする感じで、親としては控えてほしい行動だと思います。ですが、たぶん、なかなかやめられないでしょうね。

①の場合は、「大丈夫大丈夫」など他の言い方を教えるとか、手をつなぐとか何かを握るとか、黙ってできる他の安心できるやり方を一緒に探してあげる、対応がいいと思います。
②の場合は、言葉に障害のある自閉症の子供が楽しく言葉で遊べるのなら・・・恥や外聞は、親の方が捨てるべきなんでしょうね。少なくとも、禁止するのはよくないと思います。


自閉症に限らず、発達障害の子供は「相手の立場にたって物を考える」ことが苦手な傾向があり、コミュニケーションに障害が起こりやすくなります。自閉症の子は、さらに言葉と意味をつなげて捉えることが困難で、りんご=このりんご(他はりんごではない)のように一対一で覚えてしまったり、カードや写真などの視覚情報がないと言葉が出てこなかったり、様々な困難を抱えています。「記憶が線でつながらず、点で存在している」と「自閉症のぼくが跳びはねる理由」で作者の東田直樹さんは書いていますが、そういった独特の脳の使い方にも原因があるのかもしれません。

自閉症の僕が跳びはねる理由 (角川文庫)
東田 直樹
KADOKAWA/角川学芸出版
2016-06-18



気持ちを言葉で表現することは難しく、言葉の裏の意味を読み取る、場の空気を読む、ことは苦手中の苦手。一生かかっても、できるようにならない子もたくさんいます。

子供が「オウム返し」しかしないと、意思の疎通ができない、何を考えているのかわからない・・・と親御さんは複雑な思いをされるでしょう。

それでも「オウム返し」は、言語を習得する上で必要な過程であり、いつか彼らなりの「言葉」を話せるようになる可能性を秘めた、大切なステップです。諦めず、根気強く、愛をもって接してあげましょうね!